パラサイト 半地下の家族

f:id:shumaishunchan:20200219145115j:plain

韓国映画 ボン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞作品賞を受賞しました。英語以外の映画が作品賞を受賞することはアカデミー賞史上初めてのことです。アジアに生きる一員として素直に受賞を喜びたいと思います。

そんなことで、早速、日比谷シャンテで映画を見てきました。TOHOのマイレージカードを使うと65歳以上のシニアは1,200円なのでお得です。平日の午後という時間帯でしたが、観客の入りは30%程度でしょうか。マスクをしている人も多く、新型コロナ肺炎が影響しているという感じがしました。

この映画は、韓国における格差社会を描いたものだとされています。半地下の住居で生活せざるを得ない家族が、とあるきっかけで高台に住むお金持ち家族とのつながりができて、いつしか半地下家族がお金持ち家族に寄生(パラサイト)してしまうという物語です。実際の住まいも上流一家を高台、下流一家を低い土地とするような一種のメタファーで表しています。半地下家族は、低い土地からさらに半分沈んだ地下で暮らしており、最下層の最底辺を暗喩しています。

この映画の面白いところは、最下層の家族たちが知恵と団結と才覚をもって、上流家族に食い込んでゆく姿を描いたところです。

しかしながらどこか絵空事というか現実感を感じることができないのは、このように知恵のある家族が何故最下層に止まらざるを得なかったのかということです。努力しても努力しても浮かび上がることができないという韓国社会の現実を背景としていながら、何かきっかけがあれば這い出せることができるかもしれないということをこの映画が示すことができたのであれば、それは一つの希望を与えたのかもしれません。

果たしてボン監督がこのように考えたのかどうか私にはわかりませんが、半地下家族のパラサイト計画は見事なまでに推進されて行きます。そこまで頑張ることができる家族であれば、他のことでも十分頑張ることができたのではないかと考えてしまいました。パラサイト計画のきっかけは、主人公の知人が上流家庭のアルバイトを紹介したことと、その知人が持ってきた石が福をもたらす奇石であり、実際その奇石効果が十分に発揮されたような描き方がされています。これらがきっかけだったのでしょうか。奇石が奇跡を呼ぶというのは洒落になっているのでしょうか。

一方、ボン監督は半地下家族が頑張っても拭い去ることのできない事実を表現しました。それは「匂い(におい)」です。半地下家族は時折、道路消毒の為の消毒剤を半地下の窓から否応なしに注ぎ込まれます。換気の悪い半地下住居ではいつしかそれが匂いとなって彼らの身体に染みつきます。「匂い」というのは差別感に結びつきやすいものです。匂いの中で嫌な印象を受けるものを「臭い(くさい)」と表現することがあります。いじめの中でも「あいつは臭い」といっていじめますね。自分自身ではどうしようもない体質的なものから、人間はみだりに抜け出すことができないという一種の絶望感を表そうとしたのでしょうか。

ボン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」と是枝裕和監督の「万引き家族」との間には共通点がいくつかあると思います。

何れも①貧困家族であること②父母、子供からなる家族全体の物語であり、団結力・結束力が高いこと③決して快適とは思われない住居に住んでいながら、楽観的に過ごしていること④犯罪に対する越境感が薄いことではないかと思います。

そして観客は映画を見て、「大変な映画だったけど自分にとって現実感はなく面白かった」で済むのか、「社会の格差問題を的確に表した大変な映画だった」と受け止めるのかでは大きな違いがあります。ボン・ジュノ監督と是枝裕和監督との対談TVを見たことがありますが、ボン監督は「自分は社会派ではない」と言っていました。映画の楽しみである娯楽性を提供しつつ、何かを考えさせることができればこれは才能ですね。

 

もう一つ、この映画を見て韓国における家族の団結というものを感じることができました。韓国は儒教体制の影響が残っており、親・兄弟・家族の絆は強いと言われています。昨今は価値観の多様化によって次第にその絆も失われつつあるとも見る向きもありますが、韓国家族の団結は一昨年公開された「焼肉ドラゴン」でも見ることができます。「焼肉ドラゴン」は1948年4月3日に済州島で引き起こされた反共産主義団体の島民に対する虐殺事件である「四三」から日本に逃れてきた家族が、大阪空港のそばに焼肉店を開いて暮らしてゆくというものです。この映画も良い映画ですのでご興味があればご覧になって下さい。

私は韓国社会に残っている家族の絆というものが、韓国社会を読み解く一つのキーワードだと考えています。そのことが韓国・朝鮮半島の民族と国家の分断、そして統一の動きにもみえるのではないかと思います。このような観点から、韓国・朝鮮問題を考えてみたいと思っています。

 

shumaishunchan