新型肺炎について考える(4)モノが無くなる

f:id:shumaishunchan:20200301051635j:plain

今朝5:00頃、近所を散歩していたら開店前のドラッグストアの前に、トイレットペーパーを詰めた段ボールが山積みになって置かれていました。通常このような様子は見たことがないので、ストアが緊急入荷を行ったものと考えられます。

昨日のブログで、「社会不信」「人間不信」と一線を画する日本人という話をしましたが、先月の28日頃より、トイレットペーパー、箱入ティッシュペーパーがお店から姿を消すという事態が現れてきました。日本人も結局「社会不信」「人間不信」なのかと考えさせられています。このことについてあらためて考えてみることにします。

今回のトイレットペーパー騒動は、Twitterで「トイレットペーパーは中国からの輸入品なので、中国の紙不足から生産がストップする」というツイートが全国に拡散し、品不足への不安から一部の消費者の間で買占め行為が進んだものとされています。今回はこのことについて考えてみたいと思います。

大阪大学大学院経済学研究科准教授の安田洋祐氏が今回のトイレットペーパー騒ぎに関連してTwitterでツイートしています。(以下引用:2020年2月29日 20:26発信)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『買い占め行動は、「囚人のジレンマ」ではなく「協調ゲーム」を使って説明する場合が多い印象です。いずれにしても、重要な教訓は

・買い占めは消費者が間抜けだからおこるといった単純な現象ではなく、品切れが起こることを”正しく”予想して

・消費者が賢く対処しようとするから起こるという点です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Twitter名は、@yagena。個人HPは、https://sites.google.com/site/yosukeyasuda/jp

上記のTwitter引用だけを読むだけでは誤解を生む可能性がありますので是非、下記資料もご覧ください。

Twitter上では、以下QRLに掲載されている「ゼロから学ぶゲーム理論」(2018年4月14日、5月12日、6月2日にNHK文化センター梅田教室にて講師を務めた【ゼロから学ぶゲーム理論】という全3回の講義)で使用したスライドが保管されています。今回の「買い占め行動」と同じゲーム理論的な構造は「銀行取り付け」と同様であり、この「銀行取り付け」は、このスライドの29−32ページに掲載されています。保管スライドのQRLは次の通りです。https://www.slideshare.net/YosukeYasuda1/ss-100006444

 

囚人のジレンマ」はゲーム理論の代名詞ともなっているものです。ゲーム理論は経済学の理論ですが、内容は深く、私も半可通です。「囚人のジレンマ」についてネット、解説本などによる表面的な理解ですが、次の通りではないかと思います。

(以下項目は、「『ゲーム理論入門の入門』鎌田雄一郎著 岩波新書 2019年4月19日発行」を参考としました。)

<前提>

共犯関係にある二人の容疑者(容疑者A、容疑者B)が逮捕され、それぞれ個別の取り調べを受ける。警察は容疑を固めるために二人に次のような手段を用いて自白を求める。

⑴  容疑者Aに対し、「Aが自白し、Bが自白しなければ、Aは無罪放免。Bは懲役5年。」

⑵  「Aが自白せず、Bが自白すれば、Aは有罪で懲役5年。Bは無罪放免。」

⑶ 「AもBも自白しなければ、両者の犯罪と認めるが、証拠も無いのでそれぞれ懲役2年。」

⑷ 「AもBも自白すれば、犯罪成立でそれぞれ懲役4年。」

この⑴〜⑷を容疑者Bに対して同じように行います。ここのポイントは、容疑者Aと容疑者Bは隔絶され、お互いの状況と意志を確認できないことです。

<結論>

上記の通り、自らが自白するか、自白しないかによって懲役年数に変化を生ずるのですが、結果として、AもBも自白してしまうというのが結論です。

何故こうなるのかという説明としては、「ナッシュ均衡」という考え方が提示されています。「ナッシュ均衡」とは、①戦略的状況での行動=予想に対するベストな反応②予想=相手が何をするかという二つを組み合わせ、「戦略的状況での行動=相手が何をするのかに対するベストな反応」という説明がなされています。(上記書P16)

すなわち、AもBもそれぞれ自らが置かれた環境・条件の中で、ベストな対応をした結果、それぞれはいずれも自白し、懲役4年になってしまうということです。無罪というチャンスもありますが、相手の状況はわからないので、自分は自白せず、相手が自白すれば、自分だけ懲役5年になってしまうことを避け、自白という手段をとってしまうということですね。この双方とも自白するという状況のことを「ナッシュ均衡」ということだそうです。

今回のトイレットペーパー買い占め騒ぎでも、他人がどのような行動に出るのかわからないので、トイレットペーパーがなくなってしまうという不安があれば、とりあえず目の前のトイレットペーパーを買ってしまうというのが、本人にとって「合理的な行動」(社会にとって良いか悪いかは別です)であるということです。

しかし、ここでよく考えなければならない点があります。「囚人のジレンマ」は、他人(=外部)の状況は分からず、自分自身で状況判断せざるを得ない状況に陥っています。

今回の騒動では、「トイレットペーパーは中国産なので生産が中止になり日本に入ってこない」というデマツイートが発端になっているのですが、このツイートに対する真偽を疑うことなく、信じてしまっているところに問題があります。囚人のジレンマで確認できない外部状況は、十分に確認できる手段は今の日本にはあるのですが、お店に行って商品棚が空っぽの状況に直面すると焦ってしまい、買い占めに走ってしまうということなのでしょう。

このように消費者の不安感を煽ることに対して、マスコミ、メディアも一端の責任があると私は感じています。すなわち、空の商品棚、殺到する消費者の姿のみの報道が先行し、消費者の徒らな不安を招きました。トイレットペーパーの供給状況に対する正確な情報提供と消費者に対する冷静な対応を呼びかける報道が少なかったと思います。

人はパニックになったら、主観に陥り、個々人で「合理的判断」を行っているつもりでも、社会に対しては適応していないということになるのでしょう。

 

買い占め行為について、ゲーム理論研究者の言説を参考に記述しましたが、理論に対する理解不足から間違えた説明になっているかもしれません。この点はご批判とご指摘を頂戴したいと思います。

朝方のお店に夕方行きましたが、トイレットペーパーは見事に蒸発していました。

 

shumaishunchan